いささか唐突ですが、塩野七生氏からの孫引きですが、カエサルは「ガリア戦記」のなかで、ガリアとゲルマンの風俗の違いを論じています(塩野七生著「ローマ人の物語10 ユリウス・カエサル ルビコン以前[下]」、新潮文庫)。

当時のガリアは、一部はローマに抵抗している部族もいるが、かなりの部族はローマの覇権を認め、ローマ化、すなわち文明化しつつありました。それでもごく一部の、祭司階級と、軍事を受け持つ騎士階級に支配され、平民階級は何ごとも自らの意志ではやれず、集会の出席の権利もなく、それでいて重税を課せられる、ほとんど奴隷と同程度だったようです。

一方、ゲルマン人は、狩猟と戦闘に明け暮れ、農耕には、ごくわずかしか関心を示さない。狩猟のために移動し、定住しないからですが、土地を私有しない。生活基盤は家族になく、親族以上の規模の共同体におかれる。
彼らの理由によれば、定住は、戦いよりも農耕に熱心になり、私有地を認めれば、貧富の差を生じることになる。持てる者と持たざる者とが生まれるということですが、その最大の弊害は、金銭への執着と社会不安であるといいます。これらを認めなければ、平民階級も不満を感じず、平穏に暮らせる、つまり、反乱も起きまいということでしょう。

未開の時代であろうと、現代であろうと、共産制社会とは、結局のところ、こういう社会であろうと思います。

貧しさの下の平等―。平等である(ことを装う)ためには、貧しくなければならない(あるいは貧しさを装わなくてはならない)のです。
そして、全くの平等など存在せず、ごく一握りの支配者階級に支配され、被支配者層の自由は抑圧されます。

私は、平等だが皆が貧しい社会より、格差はあっても、豊かな時代の方が望ましいと思います。豊かさを求めれば、格差が生まれます。それは、2千年前のゲルマン民族も知っていたことでしょう(もちろん、ローマ人も)。ローマ人とゲルマン人の差は、したがって、格差はあっても文明の恩恵を受ける方を選択したか、それを拒んだかの差ではないかと思います。

世界で、電力の供給を受けていない人口は何と14億人だそうです。中国の全人口と同じくらい(地球人口の5人に1人)の人々が電気のない暮らしをしているのです。普通に電気のある生活、というのは、決して当然ではないのですね。
豊かさは享受したいが、格差は嫌だ、というのは駄々をこねる子供のような理屈ではないでしょうか。

より良い選択は、格差を否定して豊かな人を引きずりおろすことではなく、さらに文明を進歩させ、豊かな人を増やしていくことだろうと思います。
20数年前、ショルダーバッグ大の「携帯電話」や自動車電話を持っていた人は、ごく少数の富裕層でした。しかし今や、中学生でも携帯電話を持っています。さらに高機能・多機能化したスマートフォンにまで進化しています。
私たちは、百年前の王侯貴族よりも、格段に豊かです。多くの場合は、そうした豊かさのなかでのどちらが多いか少ないかを論っていると言ってよく、電気も通じていない地域の人々から見たら、贅沢な悩みに見えることでしょう。

どれだけ文明が進化し、社会全体が豊かになっても、自分より富める人への嫉妬は、永久になくならないかもしれません。しかし、それは、裏を返せば、実は自分もそのようになりたいという心の現れでもあります。
しかしそれは社会や国家の責任ではなく、個々人の心のコントロールの問題です。正しい方向は、豊かな人に嫉妬し、引きずりおろすことをよしとするのではなく、自分もそのように豊かになりたいと思い、努力するべきであり、国家としては、そういう方向に善導するべきでしょう。
ここに、正しい宗教が介在する必要性が生まれてきます。

人生は、この世限りではありません。この世の人生を終えても、来世(霊界)での人生が待っており、霊界で一定期間(通常2~3百年)の生活を終えると、またこの世に生まれ変わってきます(転生輪廻)。
この世限りの人生ならば、努力したことが必ずしも報われるとは限りませんが、転生輪廻の法則を受け入れるならば、因果の理法(原因結果の法則)はくらますことはできず、努力は必ず報われます。これが、仏教の基本的な考え方です。

こうしてみると、国家経営においても、宗教的精神(仏教的精神)は必要だろうと思います。
千四百年前に「仏教立国」を成し遂げた、聖徳太子の慧眼、恐るべし。

十四に曰はく、群卿百寮、嫉(そね)み妬(ねた)むこと有る無(なか)れ。我既に人を嫉めば、人亦我を嫉む。嫉妬(しつと)の患、其の極りを知らず。所以(ゆゑ)に智己れに勝(まさ)れば、則ち悦ばず。才己れに優(まさ)れば、則ち嫉妬(ねた)む。是を以て五百(いほとせ)にして乃ち賢(さかしびと)に遇はしむれども、千載(ちとせ)にして以て一聖を待つこと難し。其れ聖賢を得ざれば、何を以てか国を治めむ。(十七条憲法)


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